大きな海の中で、枠に入ったままの青い魚

NAYヨガスクール体験記 98
                     小林和之
直線上に配置



  

 父にほめられたことがあった。

あまりに幼すぎて、
それが何かも知らず、
ただ大歓声の中を必死に駆けて、終わったのだが、
ゴールテープを切ったのは僕で、
1位というものだったらしい。

歓声を上げる人たちの中に  父がいて、
うれしそうに笑っている。

自慢のニコンのシャッターを切っている。

僕は一位の旗の下に座り、
よくわからないけれど、
父が喜んでいると思った。

僕の存在という物を父が喜んでくれている。

棚ぼた的に訪れた1位だったのだが、
僕もまた笑顔で応えた。

幼稚園年少時の運動会のことだ。

 その後ずっと、父の笑顔は見ない。

「前は一位だったのにな・・・」
何度も僕は  父のその声を聞いた。

年長になった僕は、同じ徒競走で4位だった。
そして父を落胆させる存在になったらしい。
その後は、ずっと一位になることはなかった。

 小学校に上がると、
父は僕に野球をやらせたがった。

土日に遊べなくなるので
僕はいやがったていたのだが、
ある日、なぜか知らない。
言わされたような気がしないでもないが、
きっと父の説得に応えようとしたのだろう。

「やる」と僕は言った。


 しかし、そこから1年程は嫌なことばかりだった。
野球のルールなど何も知らず、
実のところ、興味もないので、
やる気もなく、土日に友だちと遊べなくなる代わりに、
うんざりするランニングとキャッチボール。
取れもしないノック練習の日々が続くこととなった。


 そんなある日、忘れられない出来事があった。
試合があったのだ。
朝に父に言われた。

「カズは今日試合に出るのか?」

僕はなぜか「でる」と応えた。
今まで一度も出たことなどなかった。
グラウンドに集まり、選手決めがはじまったとき、
僕は必死に出たがったが、あたりまえのことだが選ばれなかった。

父があの日と同じようにニコンのカメラを持って、
試合を見に来ている僕を撮ろうとグランドの端まで来ている。
その時だった。

「お〜いひとり多いぞ〜!!」と大人の声がした。

 最初はとぼけていたのだが、すぐにバレた。

「なんでライトに2人いるんだ〜!?」

 もちろん僕が勝手に出たのだった。


 あの時の父の情けなさそうな顔は忘れられない。
その夜、「カズは野球はどうするんだ?」と聞いた父に、
僕は「やめる!」と、即座に答えた。

今まで、父に対して、
こんなにはっきりと拒否の姿勢を示したことはなかった。


 父の期待に応えることのない僕は、
自由にはなったが、
認められる存在とは  別のもので、
期待の呪縛から  逃げているような気にもなった。

だんだんと  ふてくされるようにもなり、
近所の年下の子をいじめるような  嫌な子になっていた。

さらに中学校でも運動部に入らず、
父の不満はピークを迎え、
僕は、僕で父を激しく憎んでいた。


 そんな頃、たぶん中学3年の時だったと思う。
僕は  いらだつ父の理不尽さに激怒し、
ボストンバッグを床に叩き付け、
壁を蹴り上げて、怒鳴りつけたことがあった。

父の驚愕した目。
二階へ駆け上がった僕は、
そのままひとり部屋で泣いていた。

驚き過ぎたのもあったと思うが、
父は何も言わなかった。



 高校に入って、
僕は、格闘技を始め、
父は病気になって  入退院を繰り返すようになった。

17才の時、
名のある大会で僕は優勝し、
さらにゴールデンテクニック賞という
大会でもっとも優秀な選手に与えられる
トロフィーを受け取る栄誉に輝いた。

病院のベッドにいる父に
その時の試合の写真を見せに行った。

父は、ベッドから身を起こし、
「何だこんなもん」と。

いつものように
口の悪いことを言っていたが、
目は輝いていて、
「何だ、まあすごいか」と、
写真をめくりながら、
嬉しそうに笑った。

僕は、
この期に及んでも
父を見返すつもりだったので、
その試合の写真を持って行ったのだが、
悪態をつきながらも喜ぶというのは、
僕の予定とは少し違っていて、
やはり父は、一筋縄ではいかぬ人なのだった。

そしてなおも  予定外に
父はこの2ヶ月後に亡くなった。




 なぜこんな話をしているのか僕にもわからない。




 遠出をする時、必ず不機嫌になる父。

小学生の頃だったろう。
家族旅行で行った海で  波に足を取られ、
身動きできなくなった僕が、
岸側の波に立つ父に手を伸ばし、
助けを求めたにもかかわらず、

「自分でなんとかしろ」

と冷たくあしらった父。

今は、もうあまり見かけない
青と白のストライプの水着をはき、
平然とした顔をして、波の中を不動のように立っている。


 子どもの僕には、
理解の出来ぬことばかりだった父だが、
今なら
その時の心境が手に取るように分かる。

 

 それから  何十年も経ったある日だが、
結婚をした僕たちのために、
演劇でお世話になった方々が、
ささやかな祝う会を催してくれた。

その中で、ギターを習いはじめたばかりだけれど・・・と、
若い女性のお二人が、
僕たちのために小さなステージに立って歌を歌ってくれた。

歌詞の内容からすると、
新郎が親に当てて歌う歌らしい。

「・・・期待通りの僕じゃないけど、素晴らしいひとに出会えた・・・」

桑田圭祐の題名は知らない。
その一節が、繰り返される歌を聞きながら、
あらためて、僕も期待通りの子ではなかったのだな、と思えた。

期待に応えてあげられなくて、ごめんねパパ。

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NAYヨガスクール体験記 98  「

※追記: 内藤 景代 (ないとう あきよ)記

☆父と息子の葛藤(かっとう)。
男と男の話ですね。

「期待に応えてあげられなくて、ごめんねパパ。」

という、和之さんの“言葉”が、胸に響きます。

わたしも【同じ】でしたから。

父と娘、わたしと父の関係も、
「期待に応えてあげられなくて、ごめんね おとうさん。」

女の子は、本など読むな。学問するな。大学いくな
といった明治生まれの、昭和天皇と同い年の父の教えにすべてそむき・・
本までかくようになった わたしですから。


そのわたしが書いた本を読んでくださった
あなたに出会えて、
こうして、「NAYヨガスクール体験記」を毎月、読める…。
その内容は、とても「普遍的な、こころの成長物語」
だと思います。

和之さんの「NAYヨガスクール体験記」第1回目は、 
2011年6月でした。 こちらへ↓
http://www.nay.jp/0-seito-neko/kazuyuki/11-6-1-kazu-1-nay-taikenki/11-06-kazu-1.html

あれから8年!  もう98回目です。あと2つで100回。

すべて、第1回目から今までリンクしていますので、
読みなおしたいときはどうぞ。

2011年6月[内藤景代の瞑想フォト・エッセイ]

「はじまりの水」が終了した和之さんは、
若き父として、息子さんへ語りつぐ…
〃マインド・トリップの物語〃の連載開始です。

<この日、僕は教室に入会した。
1987年で19歳だった。>
とつづる「NAYヨガスクール体験記」の第1回です。
長くなりそうです。】

とご紹介しましたが、ほんとうに長く続いていますね((笑))
そのお話はこちらへ ↓↓
http://www.bigme.jp/00-11-06/11-06-01/11-06-4.htm

和之さんの「NAYヨガスクール体験記」は
こころ(心)に深く響くので
《共感》なさる読者のかたも多いのではないでしょうか。


※今月・文月(ふみづき)7月の
[内藤景代の瞑想フォト・エッセイ]写真では、
カルガモ(軽鴨)の父と母そしてヒナの親子を7枚掲載。

鳥たちの生き方をみていると、人間のわたし達にも、
【二重(ダブル)イメージ】で通じるものがあるのを感じます。
育ててくださった父と母に感謝の気もちをこめて…。

※※「女の子は、本など読むな。学問するな。大学いくな」
と教えた父とわたしの話は、こちらへ ↓↓↓↓
http://www.bigme.jp/00-15-05/15-05/15-05.html

2019年7月1日(月)[内藤景代の瞑想フォト・エッセイ]記

http://www.bigme.jp/00-19-07/19-7/19-7.html

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[内藤景代の瞑想フォト・エッセイ]

[瞑想フォト・エッセイ]  内藤 景代(NAYヨガスクール主宰)
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和之さん以外の
【◎ 9人のヨガ体験記―NAYのヨガで得られるもの】
のページ こちらへ
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