大きな海の中で、枠に入ったままの青い魚
NAYヨガスクール体験記 15         小林和之
直線上に配置
         シンクロニシティ(意味のある偶然)


風は夜に生まれた。

暗闇の奥から小さな風の音がひとつ生まれ、もうすぐここへ来る。

羊蹄山のふもとの夜のことだった。

 

僕は誰もいないキャンプ場でひとり眠っていた。

そして夜半過ぎ、風の音に目を覚ましたのだ。

はじめは何が起こったのかわからなかった。

どうしてこんなことが起こるのかも。

けれど音はしだいに大きくなり近づいてくる。

「ふうぅぅぅ」

 風は、急な斜面を吹き上がり、迫って来る。

やがて高まりまで音は膨らみ、「ごうっ」と強い風が押し寄せ、

テントは横倒しになる。

そして「ひゅううぅー…」と風はまた山へと吹き上がっていくのだ。

 

僕はまっくらな外へ出て、テントを支えるポールを引き抜いた。

このままだとくりかえし訪れる風にへし折れてしまいそうだったから。風が生まれて来る斜面の下はまっくらだった。

 

《どうしてこんなことが起こるのだろう?》

 

ほぼつぶれた状態のテントのなかへ戻ると、夜の闇の中からふたたび小さな風が生まれる。「ふっー…」と遠く小さく唸るように。

 

長い時間をかけ(といっても実際は1.2分間隔だったろうが)徐々に大きくなる風の音は、やがて津波のようにテントへ押し寄せる。

僕はうまく眠れず、だんだんと勢いを増す風の音に耳を澄ませながら、

うとうととしていた。

夜の闇のなかから風はくりかえし訪れた。

僕はその音を半ば眠りながらいつまでも聞いていた。

 

やがて風も静まっていった真夜中、

今度は外に置いたコッフェルが鳴った。

 

何かがいる。

 

僕はそれがヒグマではないかと思い怯えた。

 

2〜30分はいただろうか。

そんなに大きな動物ではない、と思うに至った頃、音は消え、

やがて僕は眠りに落ちた。

 

翌朝、外へ出た僕は、散乱した炊飯道具と一緒に落ちている

黄色い皮手袋を拾った。人さし指の先だけが食いちぎられている。

おそらくキタキツネの仕業だろう。

 

けれどどうして人さし指の先だけを食べたのだろうか?

僕は、手に拾い上げた 
  まだ買ったばかりの黄色い皮手袋をみつめた。

 

……ただそれだけの話なのだが、

僕はそのときのある種の不快感を忘れることができない。

 

今も僕の目には、あのときの黄色い皮手袋の姿が焼きついている。

まるで何かの予兆のように人さし指を失くした手袋。

 

事象が無意識から託されるときの不可避性をもって

指のない手袋は僕の目の前に現れたのだった。

その意味に気づけぬ僕は、ある種の不快感を持って立ちすくむしかなかった。

 

吹き上がる夜の風と、食いちぎられ、人さし指をなくした手袋。

 

あの日、今までの自分を捨て去り、

生まれ変わろうと旅に出た僕は、まだ18歳だった。

幼く、愚かで、まだ何も知らなかった。

 

夜の風は闇から生まれ、高まりながら押し寄せる。

あの風は、ほんとうはどこから生まれたのだろう? 

僕はその風の生み主にこころを委ねることができるだろうか。

恐れずに身を委ね、そこへ向かい立ち上がるのなら、

きっと忘れていたこころを呼び覚ますだろう。

 

けれどそこへ至る前に、たぶん黒い炎は立ちふさがる。

掻き分けなければならない黒い炎。

僕の生み落とした黒い影が。

 

理想の自分と、現実の自分との

ハザマから生まれる黒い炎は、

夜の闇から風をおこし、

僕の手袋の人さし指をその炎で焼き消した。

旅に出て以来、黒い炎は
  次々とさまざまな予兆をあらわしていたのだ。

 

僕の知らないところで ほんとうの現実は淡々と流れ、

僕だけがそのほんとうの姿に気づいていない。

 

そしていつまでも僕は、僕と現実との距離を埋められないでいる。

 

まるで人さし指のない手袋だけが、

その距離を埋める何かのように受難した姿でこの世に現れたのだ。

 

受難。

 

もしそれを受難として、「犠牲」になったというのなら、

いったい僕は、この先どれだけ多くのものを「犠牲」としただろう。

いや、それ以前に相対化する他者の姿を「犠牲」と括るのは

なんと自己中心的な考えだろうか。

 

僕と現実との距離は、こんな風に横たわっているのだ。

 

*〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

※追記 

「シンクロニシティ」は、「共時性、意味のある偶然」と訳される、
ユング心理学の【くくり方=概念(コンセプト)】です。

無関係にみえる、物と心を、
無意識がつなぎ、共振する事象、意味のある偶然。

   自分と世界をつなぐ■キーワード■のひとつ。


《意味のある偶然
》についてのお話のページは
 
          『冥想 こころを旅する本』内藤景代・著 
  
                                                     NAYヨガスクール記


『冥想(瞑想) こころを旅する本 マインド・トリップ』 内藤 景代・著 実業之日本社・刊 カバー変遷  新書(旧版)→新版(四六

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