大きな海の中で、枠に入ったままの青い魚

NAYヨガスクール体験記 126
                     小林和之
点(ドット) 青い罫

 
  雪のひとひら


 あまり歳をとった気がしないせいか、
若い頃のままのように行動をしていたり、物を書くのだけれど、
容姿だけ崩れていって
中身はあまり代わり映えしないものだと
今更ながら思う。

けれども明らかに年月は過ぎており、
時代や世代というものが移り変わっていくのを
時として感じることがある。

それは結構深い感慨で、
「この感じ、何かに似ているな~」
と思っていたら、
昔、NAYヨガスクールの東新宿教室
お借りして読んだ
ポール・ギャリコの「雪のひとひら」
を読んだ時の思いに似ているのだった。


「雪のひとひら」は、
冬の空から生まれ落ちた雪のひとひらが、
自分というものへの問いと
何者かの慈しみについてを繰り返しながら、
健気に生きていく美しい物語で、
僕は、この本を読んだあと、
しばらく胸の真ん中からひび割れるような痛みが続いていた。


教室で何かの折、そのことを景代先生にお伝えすると

「あなたの心はプラスティックのように固まってはいないのね」

と、正確ではないかもしれないけれど、そのようなことをおっしゃった。

ちょっとそれが珍しいかのようだった。

ただ僕は、その状態をあまりいいものとは思わなかった。

ほんとうにただ胸が痛いだけだったので。



 雪のひとひらは、ひとりごちる。
「なぜ、何故に私はこの世界に生まれたのか?」

けれど応えはなく、秘密は解き明かされることがない。

ただ暖かくほのぼのとした慈しみに包まれることをのぞいて。


 NAYヨガスクールの教室で 胸に手を合わせるとき、
時々 この慈しみのようなものに包まれる。

ほっとして暖かくなる。

景代先生の声が聞こえる。

心の旅を伴走してもらいながら、
この慈しみに似たものに出会う。
雪のひとひらのように。

いつかそんな慈しみに溶け込んだかのような時期もあった。
20歳になったばかりの頃だったと思う。

乳母車の赤ん坊が見ている青く透き通る空や、
小さな子の乗る三輪車の楽しさも、
見守られている安心感も
僕に伝わるようだった。

隣家の苔むした塀の上を歩く猫の足おと、
まだ淡い紫陽花の葉裏を嬲りながら
風は溶け込んでいく。

そんな自然や人のこころの営みが波紋となって響き合い、
幾重にも幾重にも伝え合っている。

そんないくつもの音の海のなかにいる。


 音の海のなかに。
光のあふれる美しい世界に
僕は生まれたのだと知った。

ひとつに溶け込んでいるようでも分かれているから、
それを知ろうとして、もうそれとなっていることを知る。

この美しい世界に生まれて、
響き合いの海に生まれて。

私の存在を思う。

生や死の不思議さを思う。

悲しみが波となって押し寄せて消えていく。

それは喜びに似ていると気づく。

どこへも消えぬ波の音、終わることのない波の音にたゆたう。


 けれどただひとつ問題があったので、
僕は、そこから戻らざるを得なかった。

まだ僕は、何もしていないのだった。


 


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 NAYヨガスクール体験記 126 「雪のひとひら

※追記: 内藤 景代 (ないとう あきよ)記

この美しい世界に生まれて、響き合いの海に生まれて。私の存在を思う。
生や死の不思議さを思う。悲しみが波となって押し寄せて消えていく。
それは喜びに似ていると気づく。
どこへも消えぬ波の音、終わることのない波の音にたゆたう。》
はい。

スポーツ・ライターだった、ポール・ギャリコの本は、
動き〔変化〕する情景の描写が鮮明で、美しいです。

彼の数冊を、東新宿教室の「貸し出し図書」にしていました。
 http://www.bigme.jp/00-0-01-essay-news/2002-07-14/2002-07-14.htm

猫の話、ポ-ル・ギャリコの『ジェニ-』は胸にしみます。

ポール・ギャリコの本は、唐十郎さんが、お芝居にしていて、
見に行きました。現実(リアル)で幻想的…。
   http://www.bigme.jp/000-00-02-10/02-10-29/02-10-29.htm


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