口の奥の方で鳴ったのは、歯が割れる音だった。
異変は、口のなかの異物となって舌先から溢れ、手のひらに落ちた。
白い歯のエナメル質はそのままで、
茶色の断面の見える奥歯のかけらだった。
僕はそれを驚きとともに凝視した。
それは紛れもない 僕の結果なのだった。
口のなかで 歯と歯が擦り合いながら はずれたのだろう。
音が鳴った。
子どもの頃、「はじめ人間ギャートルズ」というアニメ漫画の原始人が、
マンモス肉を食べながら飲む 猿酒というものがあって、
それをおいしそうに飲みほすときに鳴る音に似ていた。
カリンというのとは少し違う。
他にうまくたとえることができない 気味の悪い音だった。
その日以来、
次々と 口の奥の方から、
この不気味な音が鳴るようになった。
口のなかに生まれた異変に 凍りつきそうになりながら、
されど 僕の意識は、
手のひらにすくった金魚が 水のなかへ容易く逃れるように
「でも僕は もうすぐ ここから いなくなるのだから いいんだ」
と、こころの声が 言うのだった。
それも さも ほんとうのように。
もう僕は、現実の世界で 生きるのをやめるのだから、
いくら歯が腐っても それでいいと言うのだろうか?
そう かろうじて
疑問として考える力は、
まだ残っていた。
それを象徴的というには、
あまりにもグロテスクな符号のように
18才の僕は、
若い この肉体を養い、
現実を噛み砕き、
咀嚼する すべである
白い歯を 失っていく。
実際、僕の虫歯は ひどい有様で、
その痛みから しだいに
食べ物を噛むことが出来なくなっていた。
等身大の自分を 認めることが出来ず、
意識は 逃避的となり、
自分を大切に出来なくなっていた。
口のなかで起こった異変は そのことを 物語っていた。
「永遠の少年」の病的な
闇の方向へと
進行していた僕は、
その答えとなる
現実との違和感を
ひとり 口のなかに たたえている。
18才の僕は、
祖母のいなくなった家のなか、
歯の痛みに耐えながら、
ひとりで暮らし、
世を呪っている。
「そんなにオレが悪いのか?
オレだけが、
どうして こんなにも 一人でいなくちゃならないんだ?
オレが 失敗した人間だからか?
恥ずかしい失敗の嘲りに さらされたからか?」
18の僕は、家の中、ひとりで わめいている。
そう、その通り、
子どもの頃の 僕の周りにも その子がいた。
僕が いじめて おとしめた子が 同じようにわめいて、
さらに 追いつめられていた。
僕も それを したひとりだ。
だから 僕もまた 呪われなければならなかった。
同じように。
僕は、
僕の周りにいる 関係という 鎖を
払いのけ、
葬り去り、
生まれ変わる 必要があった。
けれど 口のなかでは、
危機の信号を放ちながら、
氷山が 海へ砕け落ちるように
あるべき物が失われていく。
激しい痛みを伴って。
この世なるものから 去って行こうとする 僕にとって、
歯の痛みは 矛盾だった。
崩壊する事象については、
どうやら 辻褄があっているが、
それに伴い、痛みが走り、
何とかしなければ、
と 焦りのようなものを感じる僕は、
当然のことながら、
矛盾の ただ中にいた。
痛みは、拷問のように
逃れられぬ 現実を 僕に 突きつける。
その痛みに のたうち回りながら、
18の 無力な僕が わめいている。
想定外の事象は、
生まれ変われると 思い込んでいる 僕にとって、
まったく別の事象界の法則を
教えられているようだった。
間違えていれば 是正を求められ、
正しければ 肯定をしながら、
ただ流れていく大河のように、
僕は、
僕の外側に、
僕の思い通りにはならない法則があり、
しかもそれは、複雑に絡み合い、
人間のつくったルールを伴う社会といわれる法則もあれば、
それとはまた違う
超法規的な法則も 孕んでいるのだった。
それは 道徳や倫理など 軽く吹き飛ばす理不尽さも
併せ持つものらしく
18の僕は、
抗えない この力たちに呪われ、
一人で わめいているのだった。
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「NAYヨガスクール体験記 103 「18」
※追記:
内藤 景代 (ないとう
あきよ)記
《この世なるものから 去って行こうとする 僕にとって、
歯の痛みは 矛盾だった。》
●はい。
……深刻な、お話なのに、、、申し訳ないですが・・・
どこか、ユーモラスで、頬笑ん(ほほえん)でしまいます。。。
「18才」の和之さんなら、このようには、
書けなかったでしょう。
2つの視点がきっちり育ち、“言葉”になり、
ほかの人にも通じる話になっています。
普遍的な「若いころ」の 深刻な、お話……。
【あのころ】を、なんとか【通過】したから、
今、《呼吸して生きている体》が、ある。
前回のお話につなげると……「おかえりなさい」。
↑今月、2019年12月の[内藤景代の瞑想フォト・エッセイ]
★こころ と からだ コーナー★
につなげると、
《歯の痛み》という【症状】で「体の声」と【対話】
せざるをえなかった…わけですね。↓↓
→だから、危険な「18」の山を越せた…生き抜けた…。
今、深刻な つらい想いをしているかたにも、
年の瀬をなんとか越して、、、
「あとで、笑えるときが くる」
と、伝わると いいですね。
よいお年を お迎えくださいませ。
来年2020年も、よろしくお願いします。合掌
※「永遠の少年」とは、ユング心理学の用語で、
少年らしい魅力を持ってはいるが
現実と向き合っていくことができず
大人になりきれない人間像。
深層意識的な元型的イメージのひとつ。
詳細は、以下の本を。↓↓↓↓
『BIG ME こころの宇宙の座標軸』 内藤 景代・著
http://bigme.client.jp/
↓↓↓
→☆パート2 デスマッチから、花と咲く
はじめに,村立がある。
それは,新しい統合へのチャンスだ。GO!
◎14 遊びX仕事 ・・・「好き」だからヤル気がでる
大好きワールドを広げよう
●「永遠の少年」…寅さん
http://bigme.client.jp/hp-bigme-2new-1.htm
2019年12月1日(日)[内藤景代の瞑想フォト・エッセイ]記
http://www.bigme.jp/00-19-12\19--12\19--12.html
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NAY SPIRIT IS BODY TRIP& MIND TRIP to SOUL in HEART since1976
NAYヨガスクールの精神(スピリット)は 心と体の旅により
ハートにある 魂たましいに出会うこと since1976 こちらへ
http://www.bigme.jp/nay-logo-hito-mark.htm
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[瞑想フォト・エッセイ] 内藤 景代(NAYヨガスクール主宰)
http://www.bigme.jp/kosin-list.htm
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★和之さん以外の
【◎ 9人のヨガ体験記―NAYのヨガで得られるもの】
のページ こちらへ
http://www.nay.jp/5-nay/nay-what/0-nay-yoga-what.htm
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◎NAYヨガスクール(内藤景代 Naito Akiyo主宰) since1976
[BIG ME club 内藤景代公式サイト] |