NAYヨガスクール体験記 86 小林和之 |
紫陽花 3 |
過ぎて行く時間の積み重なりを感じる季節が年に一度ある。 毎年、この季節に咲く紫陽花の花、 祖母の墓参りの日だ。 16才から19才までの3年間を 僕は、祖母と2人で暮らした。 一方通行の赤い点滅灯のともる道を少し歩き、 傾いた電柱の小道を左に歩いたすぐの場所にその家はあった。 濃く淡く紫色の深みを湛える紫陽花の咲く家。 何度も夢の中で帰る家。 その夢の中でいつも僕は、誰かを探している。 不思議なことに 同じようにすでに失っている家族とともに暮らした 生家である狭山の家に戻る夢は見ない。 後悔の念が、そこへ帰るように僕に言うのだろうか? それとも、 その家に封印されたままの言葉を 解き放とうとしている僕のこころの現れなのか? あの日、棺とともに封印した言葉。 恐ろしくなって慌てて隠した言葉。 あってはならない影の言葉を。 正午を少し過ぎていた。 お寺の古い反り屋根越しに見える空が、 何も変わらずに青く、 幾歳月もの時が過ぎていることが嘘のように思う。 柄杓を入れた桶にポンプで汲む井戸水を満たして、 千体地蔵堂の前を往く。 祖母の墓の草取りをしている間中、 3つほど隣のお墓の掃除をしている方が、 僕のことなど気にせずに、 お墓へ話しかけていた。 「さみしくないからね、ずっといっしょだよ、お父さん・・・」 「かぞくはいつもいっしょだから、ずっといっしょだよ、 ○○ちゃんも○○ちゃんもいるよ・・・ゆっくりお休み」 お父様か旦那さまのどちらかに語りかけているのだろう。 男性だとばかり思っていたが、女性の方だった。 朴訥として語りかける声が、素直この上なく、 僕は、映画のワンシーンの中にでもいるような気になってしまった。 けれど僕には、 とうてい同じような素直な言葉は出て来ないのだ。 紫陽花の花の咲くあの家に、 祖母の棺の中に、 僕は、僕の影の言葉を隠した。 我に返って、こわくなって、 まるでなかったことにしようと慌てて隠したのだ。 影につかまったままの言葉。 あの家の中に今も眠る棺とともに封印された言葉。 一通り語り終えると、女性は、去って行った。 僕は、墓の前で長居することができない。 たぶんあの方のように、素直に死者へ語りかける言葉が 見当たらないからなのだろう。 そのかわりに僕は、いつもその日、そのときに こころに閃いた言葉を、去り際に伝える。 「行くよ」 僕はそう言っていた。 ・・・外なる事象界の広がりへ、 内なるこころの深みへも。 ☆~☆~☆-----------------------☆~☆~☆ ********************************************* |
NEW★1976年創立の「内藤景代ヨガスクール」は「NAYヨガスクール( 内藤景代・主宰)」と名称変更しております。★2015年にレッスン場所が〔東新宿〕から〔西新宿〕に移転しました ★2016年が創立 40周年です。 |