NAYヨガスクール体験記 69 小林和之 |
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ひとつの風景のなかに
黄色い花が咲いている。 何の花かは知らない。 丸みのある何輪かの花が 濃い緑の葉の上に溢れるように咲いている。 母の長兄である叔父が亡くなった という話を聞いたあと、 僕のこころに現われた風景だ。 時間が止まっているような、 どこか見覚えのある風景の中に、 黄色い花がただ美しく咲いている。 蒼い空の下に お寺のそり上がった黒屋根が佇んでいるのが見えて、 そこが祖父母の眠る墓と知った。 その墓に 美しい黄色い花が咲きこぼれているのだ。 貧しい時代を、
祖父母と僕の母のきょうだいたちのために働き、 支えてくれた叔父だった。 数年前の法要の時は、 まだ元気そうだったのだけれど、 その後で体調を崩されたと聞いていた。 黄色い花を見て、 永遠なるもの、 を僕は思った。 それが、死の残酷さや虚無なのか、 それともまた暖かい光のような生命のことなのか、 僕にはまだ区別がつかない。 あの法要の日、
祖父母のもとで皆が育ち、 それぞれに巣立った街を、 僕らは再び歩いた。 「なんだ、もともと僕は、ひとりではなかったのだ、 えらい勘違いをしていたもんだ・・・」 そんなことを思いながら、 親類の人たちと歩いたのだ。 最近読んだビジネス書で、
諸行無常 という仏教の言葉が繰り返し使われていた。 「世の中は変化していくもので、 ひとつとして同じ形にとどまることはない。 だから躊躇わず行動に移そう。 仕事も人間関係も過去となったものに未練は必要ない。 諸行無常だけがこの世の真理で、 変化の波を読んで、果敢に挑戦していこう!」 ということを、これは僕なりの解釈だが、 かなり要約するとそのようなことを言っているようだった。 優秀な起業家で、
そのときは、素直に感銘しながら読んでいたのだが、 あとになって、 「諸行無常」 という言葉が気になってしかたなくなった。 変化へ立ち向かう生命力と ノウハウに富んだ素晴らしい考えが連ねられていたのだけれど、 僕のような凡人が、 そのまま取り入れると、 戦い済んで、日が暮れて、 ニヒリズムに陥りそうであった。 「何はなくとも、
希望の方が大事だ」 変化の波に乗りながら、
愉快で、面白く、 充実して行動していくことは勿論大事なことだけれど、 同時に違う時間の流れとともにも生きていたい。 ほっとして 胸の真中が暖かくなるような、 そんな時の中を。 諸行無常、
時は過ぎ去り、 姿形も変わり、 時世時節が変わろうとも・・・。 「何も変わっていないよ」
と伝えられる こころを 胸の真中に宿していたい。 簡単なことではないけれど、
僕にとっては、 そういう人が英雄なのだ。
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