大きな海の中で、枠に入ったままの青い魚
NAYヨガスクール体験記 64
                     小林和之
直線上に配置


闇に消える雨音



 いったい何が大切な経験として記憶に残るのか? 

いったいいつ、かけがえのないものたちとともにあったのか? 

時が過ぎてみないとわからないことがある。


 なぜかは知らない。
最近になって、心象風景のような
ある日の出来事をよく思いだす。

それは出来事ともいえないような、
ただのある日のことで、
それがなぜ、こころに残り、
思い起こされるのか僕にもよくわからない。


 それは、町田駅か多摩センター駅で降りた日のことだ。
僕は、23歳で、
世論調査の配布と回収のアルバイトをしていて、
当時、東京の街をあちこち歩いて回っていた。
このアルバイトは、1年くらい続けていて、
いろいろな人と出会ったけれど、
当時の僕のこころには、
人の孤独ばかりが映っていた。

焼いたニンニクの匂いでいっぱいの
アパートに住むおばあさんは
「あなたのような優男は心配で心配で・・・」
といつまでも話が終わらない。

異形の顔をした障害者の方。

古い映画にヘビ男と言うのがあり、
妖怪辞典に載っていて、
子どもの頃、こわくて仕方なかったのだが、
この方はそのヘビ男にそっくりだった。

話してみると人なつこい方で、
「協力したいが、お兄さんに相談しないと怒られるので」
と笑った。

笑顔を見た途端、普通の顔の普通の人と思った。

 白濁した目に怒りを込めて
僕に訴える造船所の元作業員の方もいた。
「目が見えなくなるのに役所は何もしてくれん!」

妻に出て行かれ、
ベイエリアの高級マンションにひとりいる
サラリーマンの方は、寡黙だが
僕を帰そうとはしない。

寮の管理人は世論調査表を見せた所
「でていけー!!」
と番犬のように吠えはじめた。

僕も怒ってしまい、路面につばを吐き捨てた。
そんなことを繰り返して1年が過ぎていたのだ。


 天気が変なのか、空の色がいつもと違っていた。

駅から降りてしばらく歩き、一軒目の家の呼び鈴を鳴らす。

年配の女性が出て来て、封筒に入れたアンケート用紙を渡してくれた。
母がガンで入院をしていたのだが、奇跡的に治ったと言う話を聞き、
僕は次の家へ向かった。

この辺りの家は、丘陵に建てられており、
造りも大きく品がいい。

僕は坂道をズンズン上って行った。
空が近い。

なぜかは知らない。
僕は丘陵地帯に立ち並ぶ団地と、
その向こうに広がる空のある風景が好きで、
新聞や、雑誌にそんな写真があると
切り抜いて壁に貼付けていたくらいだ。

これから出会うだろう誰かが
この風景のどこかにいるような気がしたのだろう。
ワクワクするような期待感が好きだった。

けれど今は、どうだろう? 

僕のひだりめには、
まとわりつくように、
もう終わりにしようと、
死のうとする意思が宿っている。

このまま一生ひとりで生きるのだろう、
という絶望とともに、
それはいつも暗い炎となってゆらゆら揺れている。

あの頃、思い描いていた未来とはまるで違う姿になった僕は、
切り抜いた写真の街を今、ほんとうに歩いている。

「これが現実ってやつだ」

 玄関から階段を上り、
赤煉瓦造の対象者の家の呼び鈴を鳴らす。
誰も出ない。
空を見た。
水色のはずの空は、
淡い桃色のような、少しオレンジ色がかって見える。

そういえば子どもの頃、
こんな色の空を見たっけ。

何かが変わろうとしているこんな色の空を。

 そう思ったとき、
空が、一枚の大きな絵のように見え、
絵のなかの誰かが、
僕を見て手を振っているような気がした。

何かを言っている。
一生懸命に伝えている。

 公団に出て、4、5階の家の方は、
これからご家族で出かけられるそうでお断りされた。

戻ろうとした階段から
公団の街に広がる空が見えた。

僕は団地の暗い階段に差し染める空の色を見て、
懐かしい気持ちになった。


ほんとうにそんなものがあるかどうかは別にして、

空にあるだろう魂のふるさとのような世界が、
今日だけ特別に降って来て、
呼びかけられている気がした。

会ったことはないけれど、
見覚えのある誰かが、
境界の消えた空から一生懸命に何かを伝えている。
そんな気がしたのだ。


 それから山の上の図書館で、
少し本を読んだ後、
丘陵地の公団の街を降りる途中、
雨が降り始めた。

雨は広い道路に出たところで、
スコールのように変わり、
僕の記憶にはこの後、
暗闇が訪れる。

いくらか小降りになった雨音が闇のなかに響き続け、
やがて消えて行くのだ。


 今、思い出した。
この日のことを思い、
教室で冥想していた時、
闇に消えて行く雨音を見たのだ。

確か、昼間で、景代先生はいなかった。
好きな石を選んで手に持ち、
冥想をするレッスンだった。

僕は剣のような水晶を選んで手に握った。
静かな冥想の後、
一人一人、冥想の内容を話した。

僕の番になり、闇に消えて行く雨音の話をしたら、
指導員さんが、きっと暗いイメージと捉えられたのだろう。

悲しそうな顔をされたので、
それは誤解であるから、僕はこう言った。


「雨音は、闇に消えて行ったけれど、
僕のこころは、これからはじまる予感に満たされているんです」


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※追記: 内藤景代 (Akiyo)記

☆闇に消える雨音


最後まで拝読して、
「浄化の雨」
という言葉がうかびました。

今までの闇の中を洗い流す、
激しいスコールのような雨。

【共時性(シンクロ事象)】で、
今、台風が続けてきていて、
激しい雨音をきいています。。。。

台風一過の青空が恋しいです。

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