夜になると、羽音が聞こえる。
はじめはそれほど気にはしていなかった。
毎晩、眠りに入る前になると、
どこからか遠く小さな羽音が聞こえ、
しだいに辺りを舞い始める。
僕は目を開けて、
枕に頭をのせたまま、
まるで夢から覚めたように、周りを見る。
夜は何事もなく静まり返っている。
けれど、ふたたび目を閉じると、また羽音が聞こえる。
僕は、こころのどこかで「おかしいな」と思いながら、
うとうとといつのまにか眠りにつく。
そんな夜がしばらく続いていた。
祖母が亡くなったあと、
夏を迎えた辺りは、調子が良かったのだが、
秋の深まりとともに、
一気に、情緒が不安定になっていた。
夜は、虫の羽音とともに訪れ、
その主は、ほどなく姿を現した。
スズメバチに似ている虫。
暗がりに舞う姿を見て、いよいよおかしいと思い始めた。
なぜスズメバチと言わないのかというと、
色が違っていたのだ。
黒と黄色のはずの模様が、黒と赤色をしている。
しかし刺すことには変わらず、
虫は腹から針を出し、
僕の左目を刺そうと、うなりながら舞い飛んでいる。
虫は、顔を背けても、振り払っても、執拗に襲って来るのだった。
「どうして、左目だけ、狙ってくるのだろう?」
妄想がリアリティを持って、
襲って来る異常さの最中に、
僕は、虫が、どうして左目だけを狙ってくるのか、
を考えていた。
思い当たるのは、
僕が左目を嫌っていることだった。
右目に比べ、僕の左目は、暗くよどんでいた。
目尻もやや下がり、好きではなかった。
だから人と話す時など、右側の顔を見せ、
左目を隠すような癖が付いていた。
だからといって、自分のからだの一部であることに違いはない。
焦りのようなものが、高まり、
思わず、目を見開いたとき、
暗い天井がにわかに輝き、
天井も屋根も突き抜けて銀色の月があらわに見えた。
夜の空が広がり、あたりにはゆっくりと雲が動いている。
「そうか、月の光のせいだったんだ。
月の光が、この虫を使いによこしているんだ」
僕はそう思い、音もなく輝き続ける月光に、冷たく、
残酷な意思が宿っていると思った。
僕を狂わせようとする冷たい意思が。
僕は、このような精神状態であるにもかかわらず、
自分が病んでいるとは思わなかった。
ほんとうに病んでいる人は
自分が病んでいるとは思わないと聞いたが、
まさにその通りなのだ。
ただ、危険な状態かもしれない、
とは思っていた。
青梅街道沿いにあるディスカウントストアのレジで、
買い物をするために並んでいた時のことだ。
何を買おうとしたのかは憶えていない。
前にいる人が凍りついたような顔をして、ちらりと僕の顔を見た。
理由は、僕が、レジに並びながら、
ひとりぶつぶつと気味の悪い独り言を繰り返しているからだ。
( みんなが見ている。止めなければ )
と思うのだが、止めることが出来ない。
レジの人もそそくさと目を合わせずにおつりを渡し、
さっと手を引いた。
僕は、呆然として歩き、
カゴを置く台に手をかけた。
そのときドーンという重い響きがして、
巨大な古い西洋画が目の前の空間に広がった。
それは、黒い木々がうねる夜の嵐のような暗い絵だった。
巨大な一枚の絵は、忽然と現われ、
一瞬にして消えたが、この時ばかりは、自分に言い聞かせていた。
「落ち着け」
「・・・大丈夫、まだ、大丈夫だ」と。
あの巨大な絵はきっと、
「夜の嵐のような無意識との遭遇」そのものだったのだ。
こうした病がはじまったことの大きな要因として考えられるひとつは、
精神世界に興味を持つのはいいが、
元型イメージのパワー等、
危険と表裏一体であるということを考慮していなかったことだろう。
そして、もうひとつは、
この要素において、さらにエスカレートしたと思うのだが、
人との関わりのない孤独な状態であったことだ。
このひと月後、
僕は、NAYヨガスクールの教室へ、辿り着いたのだった。
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※追記:
元型イメージとは、【元型(アーキタイプ)】。
深層心理学者のC・G・ユングが、元型(アーキタイプ)とくくったイメージ群です
元型(アーキタイプ)は、心が求める「元型=プロトタイプ=母型」的なイメージとして、
くり返されるパターン的な物語。
個人の記憶や意識をこえて、
〔古代から蓄積された世界観〕として、
神話パターンのように残されているイメージ群です。
たとえば、
〔神〕や悪魔、
死、
《光》、【闇】…
運命的な女性(アニマ=魂)、
英雄的な男性(アニムス=精神=スピリット)など。
〔深い瞑想をしていると、湧いてくるイメージ〕です。
元型イメージは、
象徴的(シンボリック)で、
「多層」的で多重的な概念なので
〔激情をともなう、イメージの複合体〕として、
強い磁力があります。
プラスにはたらけば、
《創造力》が無限に泉のように湧いてきます。
マイナスにはたらくと、
破壊的で、破滅的な、反社会的な力になったり、
自分を滅ぼしかねない自滅に導く力になります。

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