大きな海の中で、枠に入ったままの青い魚
NAYヨガスクール体験記 38
                     小林和之
直線上に配置

菖蒲園



時が過ぎていく、
という事実に、
ときどき出会うことがある。

せわしない毎日に追われ、
腕時計に刻まれていく時間以外に、
時の尺度を持たないでいると、
いつのまにか忘れてしまう。

どこかへ置き忘れて行ってしまう。

そんな大切な記憶がある。

もし何かのきっかけで、
大きな揺り返しとともに思い出してしまえば、
どうしようもない思いに、
そのまま僕は、連れ去られてしまうだろう。

自分の存在そのものでもある、
大切な記憶たちが、
こころのどこかに埋もれている。

けれど、それを取り戻すときが、
僕にもある。

亡くなった人の命日に、お墓参りに行くときだ。
かくされた記憶たちが、忙しい日々の向こうに、ほんとうは今もある。
亡くなった人の命日にそれを思う。

時が過ぎていく。

それを思うと、
ときに死に近い、くらい穴をのぞき込むような、
途方もない気持ちにもなるけれど、
同時に、ほんとうに大切なものも、僕に教えてくれる。

人と、時をわかちあい、
心をともにした、ということ。

いつもうまく言えないけれど、
僕はそんな思いを連れて、
今年もひとり、お墓参りへの道を歩いた。

それは梅雨の日の晴れ渡った昼日中、
電線の薄い蔭に宿り、白い塀にあたる陽の光に姿を変えている。

遠い声に振り返ったお寺の裏のアスファルトの道の途中、
懐かしさに似た喪失が、風鈴の音になって響いて消えた。

初夏の風が吹いている。


どこからだろう悲鳴のような声が聞こえる。

しばらく歩き、金網越しに見れば、
高級そうなテニスクラブのコートの中で、太った中年女性が、
懸命にラケットでボールを打ち返していた。
その姿よりいっそう、
「まだよー、まだ力は残ってるよー」
と叫ぶコーチの女性の掛け声がリズミカルでおかしい。


坂道を下り、やがて、校庭で遊ぶ子どもたちの声が聞こえた。
青々とした八国山の麓から聞こえているのだ。

良いことも悪いこともたくさんあった時期をこの街で過ごした。
(悪いことは、たいてい自分によって来たるもので、
良いことは、ほぼ教室で、景代先生のご指導によってもたらされたものだった)

初夏の風にしては生ぬるく、暑い午後に、
僕は、耳を澄ますように歩きながら、
しばらく会えずにいた、時の流れに満たされる。

そして、懐かしみにとっぷりと浸かり、
身をゆだね、
風景に宿る声たちを聞こうとしている。

日々の暮らしから離れ、ここへ来た。

時は、ゆっくりと流れ、
八国山のなだらかな丘陵にさえぎられ、
僕のこころも、からだもすっかりかくされていく。

今年もまた、北山公園の菖蒲の花を見に、
話さぬ祖母を連れて歩く。

木道の上を、制服を着た施設の職員さんが
車椅子に乗った老人たちを押していた。
老人たちに混じり、幾分、若く見える男性たちは、
きっと心をお病みになった方々なのだろう。

東屋の下で、菖蒲の絵をスケッチしている。
やわらかに咲き誇る薄紫色の菖蒲の花を。

話しかけている職員の女性の横顔が、
とてもさわやかで、淡い色の菖蒲の園によく似合っていた。

帰りに、風鈴の揺れるおいしいうどん屋さんで、たけのこうどんを食べた。
ラケットでボールを返す音が、遠くでまだ聞こえる。

コーチは正しい。

そう、まだ力は残っている。

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 ※追記

「ひとりになる時間」でなければ、
あじわえない、豊かな感覚‥‥というものがあります。

今、社会的な役職が、また上にあがり、超多忙な、和之さん…。

〔「ぼっち」になれる時間〕は、貴重でしょうね。

            内藤景代・記             


「ひとりになる時間」のつくりかたなどのお話は、
冥想   こころを旅する本』  内藤景代・著 こちらへ


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