大きな海の中で、枠に入ったままの青い魚
NAYヨガスクール体験記 28
       小林和之
直線上に配置

18才の旅

 

 

 準備が整ったので僕は、玄関を開け、外へ出た。
 祖母も見送りに、一緒に後ろを歩いていた。
 夜の匂いがする。
 こころなのか、それとも肺の奥へなのか、
 たぶんどちらにも夜の匂いが流れ込んでくる。

「それじゃ、行って来るから」

 僕は、照れて、顔を見ず、
 横を向いてそういうと、のどの奥がひくついた。
 思いがけず、そう言った声もふるえ、
 だから息を止めた。

溺れている子が水を飲み込むように、
 僕は、夜の空気を吸い込んでしまったのだ。
 それでこんなに息が苦しくなっている。

あやうくなった僕は、
 もう一度大きく息を吸い、
 それから言った。

「今までありがとう、
 いつもおにぎりつくってくれて、
 ありがとうね」

 僕は精一杯のから元気で。そう言った。

 祖母は何もわかっていないのか、
 笑顔で「気をつけておいでよ」と言った。
 そして「また、すぐ帰ってくるんだろう」と。

 そうじゃない。

 僕はもう帰らない。

 祖母は 僕の決心を知らない。

 だから そんなに にこにこと笑って、
 僕を見送っていられるのだろう。

 何度か話したはずだ。

 だから、わかってはいる。

 ただ、現実のことに思えないのだろう。
 だからそんなに笑って。

「しばらく いってくるよ」

 そう言って僕は、リヤシートに荷物をいっぱい積んだ
 カワサキの古いバイクにまたがると、
 祖母へ手を振り、アクセルを廻した。

 胸苦しい不安に 押しつぶされそうになるのを
   吹き飛ばすように。

 

 真夜中の国道を バイクで走り続け、
 制限速度を平気で超える大型トラックと張り合いながら、
  走った。

 夜明けに仙台を通り過ぎ、川原で1時間ぐらい眠る。
 
 けれど日差しが強く、暑くてたまらず、
 僕は起き上がり、また憑かれたように走りはじめた。

 そうして一昼夜で900km以上を走り、
 夕方、日没のほんの少し前、
 青森港に着いた。

 フェリーに載せる車がたくさん停められている
 大きなコンクリの建物の下にバイクを廻し入れ、、
 
 僕は、夕陽の沈む 青森の港を見た。

 オレンジ色の夕陽の影で薄暗いその場所から、

 18才の僕は、
   疲れ、放心して、
      ひとり夕陽を見ている。




*〜・〜・〜・〜*〜・〜・〜・〜*〜・〜・〜・〜*〜・〜・〜・〜

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ※追記

青いとき。

青い時代。

18才の、ひとり旅。 

北へ。

バイクを走らせて。

青森の海に、しずむ夕陽。

海の向こうは、北のはて、北海道。


…行きつ戻りつ、心の旅。



・・・照れくさい、青い時代。

その、こころは・・・

♪♪「北帰行(ほっきこう)」♪
    ・・・で、戦前から、歌い継がれる、心情…



自分の愛用バイクだけど、
歌いたい、こころは、同じ…昭和の青春…

♪♪♪ ・・・盗んだ バイクで走り出し♪♪



僕は「特別な存在」で、
ひとり、孤独な思いなのだけれど、、、、

くくられた思いは、
“言葉”に残り、
歌い継がれる、
心情と共鳴している。。。

・・・・・・認めるのは、不愉快だが。。。。

「多重・多層的に生きている 人間存在human being」
のお話は、
2013年8月に出した、
新刊 『意気の呼吸法-001 多層的な世界観を呼吸する』
にくわしく書きました。こちらへ


普遍的な、だれにでもある、お話として。

進路に迷っていた時代、
わたしの十代のお話も、
さり気なく書いています。

……照れくさい、青い時代。。。。
でも、その時代は、
一人ひとりの、その人にとっては、
「かけがえのない、大事な時代」。

こころが一番、育つ時代かもしれません。

こころの成長期。青春時代。


果実も、「青い時代」があります。

カラスウリ(烏瓜)、キカラスウリ(黄烏瓜 )、イチジク(無花果)…

それぞれの、花の季節と、
「青い果実」の季節と、
熟した実の写真とお話を、こちらへ↓かきました。

内藤景代(Naito Akiyo)の写真とエッセイで、
どうぞ。2013年9月1日 こちらへ



*「普遍的な、こころの成長物語(ビルドゥンクス・ロマン)
      についてのお話は、こちらへ



          内藤景代(Naito Akiyo)・記

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

                 ←前へ    次へ●→

                                                  

  NAYヨガスクール(内藤景代 Naito Akiyo主宰)   since1976